私、ヴァンパイアハンターハンターハンターハンター…………だから
シルバーハウンド、俺がそう呼ばれて久しい。いったい誰がそう呼び始めたのかわからないが、あいにくとそれを素直に喜べるほどには若造じゃなかった。 吸血鬼のハントなんて、割に合った商売じゃない。 深夜。銀の弾丸をシリンダーに込めて、スコープを覗き込む。身震いするような寒さだ。奴らは夜にしか出歩かないから、俺も自然と昼夜逆転の生活になった。朝日を見ながら床に就く生活。人間染みた生活は捨てたのだ。 スコープに、薄汚い吸血鬼のドアップが映る。青白い頬、生気のない目。見ているだけで吐き気がこみあげてくる。俺は、ゆっくりと銃口をずらす。狙うは心臓。 せいぜい一撃で仕留めてやるよ。 「グッバイ……」 反動は、しかし、訪れなかった。引き金に手をかけたところで、背後から女の声が轟いた。 「そこまでよ。武器を置いて、」 首筋にひんやりとしたものが添えられる。冷や汗がたらりと背筋を流れた。銀の刃が目と鼻の先にある。 「仲間が、いたのか……」 俺は観念して、抵抗の意志を捨てるように銃をゆっくりと地面に置いた。促されるままに手を後ろに回すと、相手はこちらの膝に膝を打ち付けて俺を地面に引きずり倒した。 標的だった吸血鬼はこちらを見て、口の端をゆがめ、にやりと――あれ、おかしいな。にやりとは笑わず。「え?」という顔をした。 あれ? まるで俺、狙われてたの、みたいな、そんな表情だ。唖然とした間抜け面で、さっと身だしなみを整えると、吸血鬼は後ずさった。 「何者だ?」 俺は後ろの女に問う。吸血鬼の味方……にしては、吸血鬼の行動が奇妙だ。 「私、吸血鬼ハンターハンター」 「吸血鬼ハンターハンター?」 なんだそれ。あまりにめまいがするような字面じゃないか。 「知らないの? 吸血鬼をハントする奴をハントするのが私の仕事、ってわけ」 首筋に添えられたナイフが月光を反射して光る。 「何だかよくわからないが。吸血鬼の味方をするのか、お前は?」 「分かってないのね、残念だわ」 女はふうとため息をついた。 俺は女のナイフを蹴りあげると、即座に後ろに引いた。振り向きざまに拳を叩きこむ。手ごたえはあったが、かすったのみだ。女は嫌そうに顔をしかめた。 吸血鬼はといえば、事態を掴みかねて微妙な顔をしている。 「あんたたち吸血鬼ハンターは、吸血鬼をハントしすぎたわ。だから、あたしみたいなハンターハンターはハンターをハントするの。そういう商売も成り立つってわけ。恨みはないけど、死んで」 女が振り下ろすナイフをかわして、俺も懐からナイフを抜いた。 両者にらみ合って、一歩も引かない。 「そこまでだ」 「……」 聞きなれない声。いやな予感がしたのは、女も同じだったようだ。 やってきた男は、金髪の優男だった。聖職者の格好をしているが、首から逆さ十字をぶらさげている。俺の置いた銃を取り上げると、具合を確かめてゆっくりとこちらに向けた。 「俺は吸血鬼ハンターハンターハンター。見たところ、吸血鬼ハンターと吸血鬼ハンターハンターだな? どっちがどっちだ?」 「俺が吸血鬼ハンターだ」 「私が吸血鬼ハンターハンターよ」 「ややこしいな」 男は舌を鳴らした。同感だ。 「まあ。どちらも殺せば済むことだ」 「え?」 男が銃に手をかける。銃声が鳴るが、吹っ飛んだのは――男の方だった。新たに現れた壮年の男が、銃を吹き飛ばしたのだ。 いやな予感がした。 「吸血鬼ハンターと、吸血鬼ハンターハンターと、吸血鬼ハンターハンターハンターか……」 男は手早く優男、すなわち吸血鬼ハンターハンターハンターを組み倒すと、締め上げて意識を落とした。 「言うことに欠いて、吸血鬼ハンターと吸血鬼ハンターハンターを”どちらも殺せば済む”だと? 何を考えてやがるんだ。己の敵も分からぬようではな……」 「これ以上増えるってのか? お前は吸血鬼ハンターハンターハンターハンターハンターだとでもいうんだろう?」 「いや」 現れた男は首を横に振る。 「私は吸血鬼ハンターハンターハンターハンターハンターハンターだ。残念ながら」 吸血鬼ハンターハンターハンターハンターハンターハンターは悲しそうに言った。辺りにより一層、微妙な空気が漂う。 「吸血鬼ハンターハンターハンターハンターハンターは数が少なくて……世界最高峰ともいえる人物が一人、いたのだが。跡継ぎに恵まれなくてな。サラリーマンになってしまったから、私の仕事はないんだ」 「……」 「そうか、お気の毒に」 転職したらいい。 そうなってしまえば、いったい何のために吸血鬼ハンター……もういいか。は世の中に存在するのだろうか。 「で、何の用だ?」 「警告しに来たんだ。吸血鬼ハンターは何人居る?」 男は俺に言った。 「教会に認定を受けているのは……およそ全国に300人だ」 「吸血鬼ハンターハンターの数は?」 「……1万人よ」 思った以上に多いな。 吸血鬼ハンターハンターハンターハンターはため息をついた。 「いいか、お嬢さん。お嬢さんはもう少数じゃない。吸血鬼ハンターハンターもまた、増えすぎて狩られる対象だ」 「おい、ほっとしたような顔をするな。吸血鬼ハンターハンターハンター、お前と同じこと考えてる奴が全国に3000人はいるからな」 俺たちは、どうもこの世界ではポピュラーらしい。 「……あたしはこの吸血鬼ハンターハンターという仕事に誇りを持っているの、邪魔をするならあんたも、敵よ」 吸血鬼ハンターハンターは吸血鬼ハンターハンターハンターハンター……に剣を向けた。もはやどの勢力がどの勢力かわからず、辺りの空気はより一層混迷を極めた。 「すみません」 と、再び事態を中断させる声。一同はそちらを見た。 ウンザリだ。 「もう読めたぞ。吸血鬼ハンターハンターハンターハンターハン……っていうんだろう?」 相手はあっさりと首を横に振った。 「いいえ、こちら、種族統制管理保護局のものです。吸血鬼の数が乱獲により激減し、100人を下回りました。第一級レッド、リスト入り。つまり保護対象に指定されました」 「なんだって!?」 と、吸血鬼ハンターハンターハンター。 「ですので、吸血鬼をハントすることは法律で禁止されます」 「つまり?」 と、吸血鬼ハンターハンター。 その、種族統制保護なんちゃらは頷いた。 「吸血鬼ハンターとしての資格は、全て無期限に停止されます」 みんながみんな、一斉に吸血鬼の方を見た。吸血鬼は、何が何だかわからないという顔をしている。「保護対象、禁猟」と書かれたステッカーを、保護局は吸血鬼のマントにぺたりと貼った。 「じゃあ、こちらで保護しますんで」 ◆◆◆ 紆余曲折あって、俺はゾンビスレイヤーに転職した。やっぱり転職はまだ若いうちに限る。まだ若い。それなりに年を食ったが、柔軟ではあるのだ。吸血鬼ハンターとしての誇りは、そのままゾンビスレイヤーに充填だ。 ひやりという感触が首筋にあたった。既視感。いやな予感がした。震える唇で、俺は聞いた。 「お前はゾンビか?」 「いや」 声は言った。 「俺はゾンビスレイヤースレイヤーだ」 どうしてこう、世界は均衡を保とうとするのか。そして世界には同じことを考えている奴が10人はいるのか。俺は予感を感じて、月に向かって吠えた。
定期的に吸血鬼が書きたくなるらしい。